代表ストーリー

茶谷 信明代表取締役社長

カービュー時代 前半

個人事業主として独立して2年ほどたった2004年頃、ある会社に縁があり入社を決めました。ソフトバンクとマイクロソフトが合弁で、マイクロソフトが米国で行っていた自動車関連の総合情報サイトの運営を日本で行うため、設立された、カービューという企業でした。

僕の当時のミッションは、オンライン事業が専門であるカービューが立ち上げる、海外向けのトレーディング事業を成功させること。
今まで培ってきた営業力で早期に海外約30カ国の販売先を開拓し、入社半年で部長に就任。15名の組織を束ねていました。

しかしその1年半後、ソフトバンクグループの経営方針の方向転換により、トレーディング事業のクローズを迫られます。1年間という期限付きで「圧倒的ナンバーワン」を実現することが求められており、事業が伸びつつあったにも関わらず、継続は認められないと判断されてしまったんです。 僕とカービューの当時の代表はどうしても諦められず、2人で圧倒的ナンバーワンを目指すことができるビジネスモデルを再度練り直しました。

そして誕生したのが、自動車の「グローバルオンラインショッピングモール」というアイデアです。海外の個人ユーザーが、オンラインを通じて日本全国各地から出品されている中古車をワンクリックで直接購入できるという、画期的なサービスです。価格帯が高く、各国の輸入規制や国際輸送のハードルなどもあるため、Amazonや楽天、YahooといったEC大手企業もまだ参入していない、斬新なビジネスモデルでした。
それまで、海外の個人ユーザーが日本の中古車を買うには、現地の商社や仲介業者を通じて購入するしか方法がありませんでした。カービューがもともと運営していたトレーディングサイトも日本の中古車を海外現地の仲介業者に販売するBtoBのビジネスしか行なっていません。しかし間に仲介業者が介入するということは、途中でマージンを取られる構造となるため、海外の現地ユーザーは非常に高い値段で仲介業者から中古車を買わざるを得なかったんです。

「中古でも高品質で丈夫な”日本車”を求める発展途上国のユーザーが、適正な価格で、安心して購入できるオンラインプラットフォームを作りたい」

このような強い使命感を持って、新しいチャレンジは始まりました。
ただトレーディング事業の際に20名近くいた部署は解散となり、僕の他にはWeb制作担当と事務のアシスタントの部下が2名という、合計3名のチームで挑むことに。売主となる国内の加盟店開拓と、買主となる海外バイヤーの開拓、国内外のデジタルマーケティング活動などは全て僕が1人でこなしました。海外ユーザーが使いやすいサイトを追求し、Web制作担当とは欧米諸国のベンチマークとなるWebサイトを研究しながら、何度も打ち合わせを重ねてUX/UIを作り上げていきました。

カービュー時代 後半

この「グローバルオンラインショッピングモール」のWebサイトは、取引社数も流通台数も0からのスタート。様々な壁にぶち当たりながらも、少人数のチームで試行錯誤を重ねたことで、ローンチ後は毎月着実に成長していきました。 周囲からはあまり期待されていない中で始まったサービスでしたが、1年後に80社、3年後に350社、そして6年後には1,000社もの加盟店が集まり、月間の取引流通台数は7,000台に上りました。その頃には、たった3名だった組織が30名規模にまで拡大。年間で6億円もの営業利益を出すほどの一大事業に成長を遂げたのです。

そして何よりも嬉しかったのは、海外ユーザーから届くたくさんの喜びの声でした!

「すごくキレイな日本車が届いて、本当に嬉しい」
「奥さんの誕生日に最高のプレゼントができたよ、ありがとう」
「村から町まで片道4時間歩いていたところを、1時間で多くの人が移動できるようになった」

タンザニア、ニュージーランド、ケニア……あらゆる地域から感謝の声が届き、「あきらめずに事業を立ち上げて本当によかった!」と心から思いました。
最初にサービスのアイデアを練っていたときに想定していた通り、「良質な日本産の中古車を安く買いたい」というニーズは、世界の至るところで強く存在していたんです。
特に発展途上の国々では、日本製の自動車は高級なイメージを持たれています。現地の中古車販売店やディーラーを通して買うと非常に高額になってしまうものを僕らが作ったWebサイトを利用すれば、大幅に安い価格で買うことができる。海外ユーザーたちの口コミも手伝い、想像を超える勢いで取引が広がっていきました。

しかし、一方では深刻な問題もありました。一部の取引で注文した通りの車種が届かなかったり、購入時の情報に記載された走行距離が改ざんされていたりといった、トラブルが発生していたんです。最悪だったのはバイヤーが代金を支払ったにも関わらず、加盟店が輸出をせず夜逃げしてしまったこと。その後アフリカ出張でウガンダに行き、現地でサービスのセミナーを開催したとき、1人のユーザーから質問を受けました。

「このセミナーのために、300km離れた村から2日かけて来た。1年前、数百人の村人からなけなしのお金を集め、おたくのWebサイトで50万円のハイエースを購入したが、いまだに車が届かない。何度もメールや電話で問い合わせたが、毎回『もうすぐ出荷する』とはぐらかされ、しまいには連絡が取れなくなった。サイトを見ると、その業者の名前がもう消えている……。みんなの大切なお金だぞ!?みんなにどう説明すればいい?俺は村に帰れない……!」

男性の目には涙が浮かんでおり、僕は返す言葉が見つかりません。
途上国の人たちを裏切り、悲しませるようなサービスにしてはいけない!と強く思いました。

出張から戻ると、当時の社長にすぐ直談判をしに行きました。
優良なセラー(売主)かどうかの審査を厳格にするべきです。審査を通過しないセラーにはサイトから退店してもらい、ユーザーのサイトに対する信頼を高めるべきだと。しかし、社長の返答は「No」でした。長期的なユーザーからの信頼の獲得は大事だが、退店する店舗が増えると売上が減少する。短期的に売上を上げないと株主を説得できないというのが理由です。

「海外ユーザーに信頼され、愛されるサービスにしたい」という想いを曲げられなかった僕は、ほどなくして会社を辞めて転職を決意します。